【鈴木先生から】( 二〇二三年三月十日)
お釈迦様の前世と言われる「雪山童子」(せっせんどうじ)のお話です。
修行を重ねても真の悟りを得ることがなかなかできず、ヒマラヤの雪の山中を歩き、真の悟りを求めていらっしゃいました。
ある日、雪山童子は、
「諸行無常 是生滅法」
と一節が聞こえて来ました。即座に、これは「無常」を説いた言葉で、真の悟りにつながるものと確信しましたが、これには必ず後に続く言葉があり、それを聞きたいと思いました。
辺りには人影はなかったはずでしたが、世にも恐ろしい形相の「羅刹」の姿を認めました。
羅刹以外には、その一節を唱え得る者はなく、雪山童子は羅刹に、後に続く言葉を乞い願いました。
羅刹は言いました。
「私はこの何日も食べていない。お前があの岩山の頂に立ち、身を投げ打って、私の餌食になることを願うならば、お前に後の言葉を授けよう」と。雪山童子は、
「真の悟りを得られるならばこの命は惜しくない」と、岩山から身を投げた瞬間に、羅刹から「生滅滅已 寂滅為楽」と偈を授けられ、真の悟りを得られたのでした。
羅刹は元の姿に戻り、雪山童子を抱き取り、地上に降し、敬礼し、「あなたこそ真の菩薩で、この決心があってこそ仏覚を開くことができるのです」
と称えました。帝釈天は羅刹の姿に化身して、雪山童子の求道心を試さんとしたのでした。
この偈は、日本では「いろは歌」でその真意を伝えています。
諸行無常(いろはにほへと ちりぬるを)
是生滅法(わかよたれそ つねならむ)
生滅滅已(うゐのおくやま けふこえて)
寂滅為楽(あさきゆめみし ゑひもせす)